【VALORANT】マクロ思考・ミクロ思考とは
本記事は、下述する記事の子記事です。前置きや手引き、目次などについての詳細は親記事を参照ください。
はじめに
この章では、チーム活動を行うにあたって重要な概念の一つであるマクロとミクロについて述べていきます。
マクロとミクロは共に単語が似ているため、概念の違いをしっかり頭で理解しなければ意味を混同しかねないです。
この記事の目標として「①マクロとミクロの違いを理解」し、「②マクロ的な思考を実際の試合で適応できる」ようになれば幸いです。
一般的なマクロ・ミクロ
2つの違いについて、まずは辞書による定義から違いを見てみましょう。
・辞書による定義
マクロ【macro】 は巨大・巨視的であること*1で、ミクロ【(ドイツ)Mikro/(フランス)micro】はごく小さいこと、微小・極微・微視的であるさま*2。
つまり、マクロはでかい ミクロは小さい
以上!
自分は、マイクロチップ【Microchip】は微小である
→ マイクロ = Micro(ミクロ)= 微小 という思考回路で覚えました。
ただしこの覚え方は、マイクロチップの英語スペルを元から知っていないと、マイクロチップ = マクロと間違って捉えてしまう可能性があるので注意が必要です。
覚え方の1つとして共有しておきます。
理解を深めてもらうため、様々な分野のマクロ・ミクロの違いについても追記しておきます。
・経済学
マクロは一国の経済全体を見るもので、ミクロは経済の基本単位である企業など個別の主体について見るもの*4
・予算案
マクロは20年後までを見越した超長期需要で、ミクロは年度毎に想定される予算*5
・粉体工学
マクロは粒子の集合体、ミクロは粒子1粒*6
つまり、マクロはミクロが積み重なったものだと言えるし、数多くのミクロをまとめてマクロと呼ぶこともできます。
戦争
FPSにおけるマクロ・ミクロの概念として、一番近い定義をしているのが戦争の分野です。
戦争において、マクロは【戦略(Strategy)】、ミクロは【戦術(Tactics)】と表現されます。
陸上自衛隊の幕僚などを経験した松村(2006)氏は、戦略と戦術の違いについて以下のように説明しています。
戦略とは、「戦闘部隊が有利な条件で戦場にのぞめるように全体を構成する策略であり、戦闘における勝利を最大限に利用すること」である。*7
戦術とは、「戦場において戦闘に勝利する術」である。*8
戦略は戦争の勝利のために一連の戦闘を効率的にアレンジするが、戦闘に敗北すればどんなにすぐれた戦略も、元も子もなくなる。戦闘に勝利する術は「戦術」なのだ。*9
まとめると、戦闘に勝利するためには戦術(ミクロ)の存在が不可欠であり、戦闘を有利に進めるためには戦略(マクロ)も考慮する必要があるということです。
つまり、大局的なマクロはあくまでミクロを効果的・スムーズに遂行するための手段の1つに過ぎず、マクロだけを重視していると戦闘に勝利できないのです。
私が親記事でも述べましたが、あくまで勝利を決定付けるのは撃ち合い(ミクロ)であり、知識や頭脳(マクロ)ではありません。
パーティではなくソロで十分に戦えるということは重要な指標の1つ
1人でキルを取る技術を持っていないと、例えばチームプレイから解放された瞬間や少人数戦において勝ち筋を逃してしまいます。
チーム活動を行うにあたって、味方と連携が取れたりソーヴァのリコンボルトを多く覚えていることよりも、少人数戦が強い(一人でキルを取る技術を有している)ことの方が遥かに重要
チームを組むにあたって文化的最低限度のエイム力を身に付けていることは大前提
真っ向の撃ち合い(ミクロ)で勝利できない相手に対する手段の1つとして、大局的なマクロが存在するのです。
この関係性を図に表すと以下のようになります。
Valorant
上図のそれぞれのケースについて、Valorantの例を挙げながら述べていきたいと思います。
ケース① ミクロ
VCT 2021: APAC Last Chance Qualifier - Reject vs. Full Sense [Ascent] - 18ラウンド目
攻撃側
防衛側はB・ミッドを完全に制圧し、敵の本命はAだと確定できた状況(マクロ優勢)で、攻撃側はアビリティを多く使った最強のセットアップ(ミクロ)でAサイトの制圧を成功させました。
このように、いくら本命を確定された(マクロ劣勢)としても、相手のミクロ(A守りの手法)よりこちらのミクロ(A攻めの手法)が上回っているならば、ラウンドを勝利に導くことが可能です。
ケース② ミクロ + マクロ複合
VALORANT Champions 2021 - Envy vs. Acend [Bind] - 23ラウンド目
防衛側
攻撃側の初動Bアクションがあまりにも迅速で強烈だったため、A側にヴァイパーULTを残してB4で守ろうと画策します。
その結果、ガイディングライト、ペイント弾、インセンディアリーなどのアビリティを返すことで敵の侵攻を止めることに成功します。
攻撃側は仕方なく再展開を強いられるものの、A側はヴァイパーULTで広くエリアを抑えられており、カウンターになり得たオウルドローン、ソーヴァULT、スカイULTなどは既に使い切ってしまったため、為す術なくシャワーから侵攻します。
その結果、ULTで待ち受けていたレイズ、エリアを広く確保していたヴァイパーの2人によって壊滅させられました。
このラウンドにおいて、
・A側はヴァイパーULTとレイズULTで守り切る
・B側は3〜4人のマンパワーで守り切る
→ ミクロ思考
・ヴァイパーULTのおかげでB4にすることができた
→ マクロ思考
つまりAショートのヴァイパーULTは、A守りの1手段だけに留まらず、B守りを楽にするための役割も担っているのです。
ケース③ マクロ
VALORANT Champions 2021 - Envy vs. Acend [Ascent] - 9ラウンド目
攻撃側
攻撃側はAB共にエリアが広く取れた(マクロ優勢)ため、BにキルジョイULTを使ってBフェイクAを画策します。
しかし肝心のA攻めの手段が軟弱(ミクロ劣勢)であったため、防衛側アストラの1人によって殲滅されてしまいました。
VALORANT Champions 2021 - Sentinels vs. Team Liquid [Split] - 22ラウンド目
防衛側
ミッド・B側は4人で殲滅する配置(ミクロ)で勝利を目指し、A側は引き目に守って5人で一気に取り返す算段(マクロ)でしたが、肝心のどうやってAサイトを取り返すのかのミクロ面がおざなりになっており、敗北を喫しました。
特に相手のヴァイパーULTのカウンターに成り得るスカイULTがヴァイパーULTが展開する前に使用されてしまったため、Aリテイクで勝つプランは崩壊してしまったでしょう。
さらに指摘するなら、スカイだけの責任ではなく、ヴァイパーULTに対するAミクロの手法を共有できていなかった、もしくは敵ヴァイパーのULTがあと1つで貯まることを気付けていなかったチーム全体のミスと言えるでしょう。
このように、最終的なミクロのプランをチーム内で共有できていないと、いくらマクロを統一・優勢したとしても勝てる見込みは少ないです。
個人におけるマクロ・ミクロ
以上の例はチーム活動やマップ全体におけるマクロ・ミクロであり、もっと矮小で個人的な観点から着目すると概念が少し変わります。
スモーク
スモークと言えば射線を切るため(マクロ的)に使うのが一般的ですが、使い方次第ではキルを発生させるなどミクロの手段として扱うことも可能です。
EDION Valorant Cup - DetonatioN Gaming vs. SCARZ [Haven] - 20ラウンド目
防衛側ジェット
攻撃側のブリーチULTに対するカウンターとして、スタンしたジェットは足元にスモークを展開してその中に隠れることで、「①自分の生存時間を長引かせて時間稼ぎ」「②フラッシュ避け」「③自分に注目を集めて味方ソーヴァに意識がいかないようにしている」といった様々な役割を担うことができ、4v5の人数差不利かつC2人守りのマクロ完全劣勢状況下でも勝利に繋がるプレイを行うことができました。
VCT 2021: Japan Stage 3 - BlackBird Ignis vs. Crazy Raccoon [Ascent] - 24ラウンド目
防衛側キルジョイ
B1守りに対してB攻めをされたマクロ完全劣勢状況下で、キルジョイは味方のアストラスモークを使って巧みに立ち回り、AサイトにいたジェットがBサイトまで駆けつけるまでの時間を稼ぐことに成功しました。
VALORANT Champions 2021 - Full Sense vs. Vision Strikers [Haven] - 15ラウンド目
防衛側キルジョイ
エコで一発逆転を狙うキルジョイは、味方のアストラスモークを使って潜伏を行い、敵スカイに対して有利な撃ち合いを仕掛けることに成功しました。
以上のように、味方の【静的プレイヤー】が時間を稼いだり、射線を減らしてキルを生みやすくするためのスモークのことを【ミクロスモーク】【耐えモク】などと呼びます。
ソーヴァ
ソーヴァは情報やエリアを取ること(マクロ)に長けたエージェントですが、これも使い方次第でキルを発生させるミクロ的なプレイが可能です。
VCT 2021: NA Last Chance Qualifier - XSET vs. Cloud9 Blue [Bind] - 9ラウンド目
防衛側
キルを取るためのリコンボルトです。
リコンボルトをトキシックスクリーンの裏に打つことで、敵レイズの場所を一方的に視認し、正確なモク抜きによってキルを取ることができました。
VCT 2021: NA Last Chance Qualifier - XSET vs. Cloud9 Blue [Bind] - 18ラウンド目
攻撃側
キルを取るためのオウルドローンです。ドローンで敵レイズにリコンボルトを刺し、ウォールハック状態の間にULTでキルを狙います。
もしソーヴァ ULTでキルが取れなかったとしても、味方レイズがランプ・Aサイト裏まで取れていたため、ソーヴァ ULTで混乱状態に陥っている敵を一気殲滅することができたでしょう。
ヴァイパーULT
ヴァイパーULTはマップの広範囲に影響を与えるため、前述の例のようにマクロ・ミクロの要素の両方を担うことが可能です。
しかし展開する場所を変えることで、マクロ・ミクロの比率を自在に変化させることが可能です。
特に、敵の経路を潰すようにサイトより前に展開されたヴァイパーULTはマクロの要素が強いです。
VALORANT Champions 2021 - Secret vs. Gambit [Bind] - 16ラウンド目
防衛側
Bindではサイトへの侵入口が2つしかないため、片方の入り口はULTで射線を切り、もう片方はULTを背にして有利な位置から監視することができます。
ゆえに、初動B3からヴァイパーを残してB1に配置転換することが可能(マクロ思考)です。
しかしこのULTは敵のBショート・フッカー攻めに対して直接的な効力を発揮しません。
重要なので何度も申しますが、いくらマクロを上回っていたとしても最終的なミクロで凌駕することができなければ敗北を喫してしまいます。
そこで使われる代替手段が、ミクロ思考を重視したヴァイパーULTです。
VCT 2021: Japan Stage 3 - Gaming team Selector vs. BlackBird Ignis [Bind] - 6ラウンド目
防衛側
同様にBロングに対してULTが展開されていますが、フッカーやサイトにもULTが被っているため、総合的なB守りの強度(ミクロ)はこちらの手法が凌駕しているでしょう。
しかし、ミクロを重視しているためB1にすることは不可能です。
ソーヴァがBから離れてしまうと、ヴァイパーはULTが邪魔でフッカーを監視することができません。逆にフッカーを監視できるポジショニングを行ってしまうと、これもULTが邪魔でBロング抜けを完全に抑えることができません。
そもそもこのラウンドでヴァイパーはジャッジを持っていたため、2つの侵入口を1人で監視することは武器のレンジ的に不可能です。
初めからB1にする予定がなかった(マクロを軽視した)作戦だったとも言えるでしょう。
どっちが良い悪いという話ではなく、大切なことはどちらの手法もメリット・デメリットが存在し、それぞれマクロ・ミクロの考え方が違うということです。
この違いを理解せずに適当にヴァイパーULTを展開してしまうと、とんでもない利敵になり兼ねません。
チーム活動だけに限らず、ランクマッチなどのPUGでもマクロ・ミクロを考えながらヴァイパーULTを使うことができれば、より撃ち合い勝率が上がること間違いなしでしょう。
*1:https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD/
*2:https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E3%83%9F%E3%82%AF%E3%83%AD/
*3:環境省: 犬と猫のマイクロチップ情報登録に関するQ&A, 2021年12月3日, (最終アクセス 2021年12月4日), https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/pickup/chip.html
*4:https://business-textbooks.com/micro-macro/
*5:橋本 尚: マクロとミクロの谷間, 電氣學會雜誌, Vol 88, No. 958, pp. 1131-1133, (1968).
*6:東畑 平一郎: マクロとミクロ, 粉体工学研究会誌, Vol 12, No. 12, p. 662, (1975).
*7:松村劭: 戦術と指揮 命令の与え方・集団の動かし方, PHP研究所, pp. 20-21, (2006).