アンボックス・アンボが選ぶ、極上のハードロック/メタル・アルバム15作【1/5】
導入
先日、音楽カルチャーメディア『Rolling Stone』にて、「スレイヤーのケリー・キングが選ぶ、不滅のメタル・アルバム10作」という記事の日本語版が公開されました。
好きなアーティストの自分語りを読むのは非常に興味深かったので、本誌でも流行に乗って、私の好きなアーティストであるアンボックス・アンボ氏に独占インタビューを行ってみました!
アンボックス・アンボとは
自称「古典ロックの狂信者」で、なぜメタルを始めたのか自分でもよく分かっていないらしい。メタラーの集いで「好きなバンドは THE BLUE HEARTS です!」と自己紹介したことがあるとか。
そんな彼(性別不詳で女性かもしれない)に、ケリー・キングと同じく「ハードロック/メタル・アルバム10作」というテーマでインタビューをお願いしました!(10作と伝えたのになぜか15作送られてきたのはナイショの話)
さてどんなリストが送られてきたのか、乞うご期待です。
関連記事
調べているうちにこんな関連記事があることも知ったので、興味がある方はご一読ください。
本編
アンボ氏:
ハードロック/メタルの本質は「様式美」「構造美」にある。
ハードロック/メタルにおいて、「見事なギターソロ」「難解なフレーズ」という着眼点は本質を捉えていない。
理解を深めるためには、「フィーチャーパート(多くはギターソロ)に向かっていく展開」や「リフの発展」などに着目し、その過程でどのような技法が使われているかを考察することが必要である。
ここでは、そういった様式のスタイルが提示・確立されたアルバムや、美しい構造が見られるアルバムを中心に選んだ。
Thin Lizzy - Live And Dangerous (1978)
アンボ氏:
「ツインリード・ギター」というスタイルを一躍有名にしたのは、一般的に AC/DC や Judas Priest などと見なされている*1が、その功績の裏に Wishbone Ash や Thin Lizzy といったバンドの存在があったことを忘れてはならない。
ライブアルバム『Live And Dangerous』では、Thin Lizzy の有名曲「Cowboy Song」「The Boys Are Back In Town」などの他に、ツインリードの重要作「Emerald」「Southbound」「Massacre」「Don't Believe A Word」「Sha La La」などが収録されている。
古典ロック狂信者としては、「Dancing In The Moonlight」のサックスや「Are You Ready」のロックンロールを彷彿とさせるギターソロに心惹かれないわけがない。
彼らはハードロックバンドとしては異質で、主要メンバーがアイルランド出身なのだが、そのせいでよく「アイリッシュロック」「カントリーロック」「ルーツロック」などと見なされることも少なくはない。
本アルバムでも収録されている、ハートランドロック・アーティスト Bob Seger のカバー曲「Rosalie」などの存在が、その主張を後押ししている。
しかし、彼らは紛うことなき熱い魂を持ったハードロックバンドであろう。
重圧のある「ツインリード・ギター」スタイルは言うまでもなくハードだし、「Emerald」「The Boys Are Back In Town」「Don't Believe A Word」ではジャズやブルースに根付いた強烈な横ノリが見られ、「Sha La La」では Keith Moon、John Bonham、Cozy Powell などのドラムヒーローを彷彿とさせるような見事なドラムソロが聴ける。
これをハードロックと呼ばずに何と称するのか。
関連記事 横ノリとは
Thin Lizzy はハードロックバンドとして第一に挙がるような知名度・人気のあるバンドではないと思うが、Thin Lizzy にはハードロックの全ての要素が含まれているため、私がビギナー層にハードロックを紹介するなら間違いなくこのアルバムをオススメするであろう。
いわゆる「三大ハードロックバンド」の1つである Led Zeppelin は、フォーク、ジャズ、ブルース、ケルトなどのルーツ音楽に強く影響されすぎているため、それらルーツが理解できなければ、編曲や構造の素晴らしさを理解するのが難関である。Deep Purple はクラシックに影響されすぎているため、J-Pop に影響されている我々現代人にとって目新しさはない。Black Sabbath は「様式美」に感銘できなければ、冗長なフレーズが延々と続いていくだけである。
ビギナーがハードロックを理解するには、ハードロックと現代ポップスの違いを実感できるような経過バンドが必要である。その存在が自分にとっては Thin Lizzy であった。
UFO - Strangers In The Night (1979)
アンボ氏:
ハードロックの隠れた代表バンドの1つで、上述の Thin Lizzy や Blue Öyster Cult などと並んで紹介されることが多い。
神ギタリストの Michael Schenker が在籍していたとして知られるが、このバンドの真髄はキーボーディストの Paul Raymond にあるだろう。ライブアルバム『Strangers In The Night』を聴いてもらえば分かると思うが、リフのほとんどは Paul Raymond が演奏しているのである。
特に「Out In The Street」「Love To Love」「I'm A Loser」「Let It Roll」といった曲は、キーボードのリフが主軸となって構成されている。
加えて、Thin Lizzy とは打って変わって、通常のハードロックバンドと同様にギタリストは1人である。
ではなぜギターが2本鳴っているのだろうか?
その理由は灼然明瞭で、キーボーディストの Paul Raymond がギターも演奏しているのである。
キーボーディストというのは「ニューウェーブ」「ディスコ」などの台頭によって、1980年代から徐々にバンド内での存在感を増していくのだが、その多くは弾きっぱなしがほとんどである。ゆえにキーボーディストの自己表現としては「音色」「フレーズ使い」「技量」などが重視されることが多いのだが、Paul Raymond は「休符」によって唯一無為のスタイルを確立させているのである。
特色的な音色・難解なフレーズを必要とせず、聴けば1発で「UFO」と分かるスタイルは彼の手腕(ボーカリストの Phil Mogg の存在も欠かすことができないと有名)によるものだろう。マルチタイププレイヤーやソングライターとしても優秀な彼に心惹かれないわけがない。
今回、Paul Raymond の演奏が際立っているライブアルバムを紹介したが、スタジオアルバムを1枚選ぶなら、Paul Raymond の世界観が大きく打ち出されている『Misdemeanor』(1985) を挙げる。
Michael Schenker が脱退した後の作品なので、表に出ることはほとんどない(ネットで高画質のアルバムジャケットが発見できないほど)なのだが、Paul Raymond のファンとして決して外すことのできない隠れた名盤である。
そんな尊敬してやまない彼だが、2019年4月にその生涯を閉じた。彼が亡くなった時は本当にショックだった。ちょうどその時期は新しいことを始めようと躍起になっていた時期だっただけに、立ち直るのに長い時間を要した。
Black Sabbath - Heaven And Hell (1980)
アンボ氏:
Thin Lizzy の項でも述べたが、Black Sabbath は「三大ハードロックバンド」の1つである。代表曲には「Black Sabbath」「War Pigs」「Iron Man」「Paranoid」「Children of the Grave」などが引き合いに出されることが多く、「メタルの帝王」「闇夜の貴公子」などと称されるボーカリスト Ozzy Osbourne が在籍していた、いわゆる「Ozzy 期」がフィーチャーされることがほとんどである。
しかし私は、Ronnie James Dio がボーカルを務めていた「Dio 期」の傑作『Heaven And Hell』を紹介したい。
本作では、Dio が以前加入していたバンド Rainbow によるアルバム『Rising』(1976)、『Long Live Rock 'n' Roll』(1978) で提示された新たなスタイル「様式美」「構造美」が確立されたと言えるだろう。
では具体的にどのような様式が建立されたのかと言うと、ボーカルが内包する「Verse - Chorus パート」ではドミナントの半終止で緊張感を高め、ギターソロパートや中間部でトニックで終止するスタイルである。
簡単に言えば、焦点を当てたいパートに向かって盛り上がっていく構造(ヘヴィメタルにおいてはギターソロに向かっていく)と言えば分かりやすいだろうか。この構造のことを、ここでは便宜上「Dio 形式」と独自に呼ぶことにする。
それらの様式を聴くことのできる「Neon Knights」「Children Of The Sea」「Heaven And Hell」「Die Young」といった楽曲は、メタル史を語る上で絶対に外せるわけがない。
ハードロックに影響されたジャンル(1990年代のハードロックに回帰したグルーブメタル、それに影響されたメタルコア等)においては、ギターソロではなくコーダ(最終パート)がフォーカスされて構成されることがある。
編集者注釈:アンボックス・アンボ氏が制作された曲にも「Dio形式」は多く見受けられます。
これらの構造はクラシック音楽の「ソナタ形式」を小規模に凝縮したもの、もしくはほぼ同一と見なされることが多く、Dio は幼少期からオペラやクラシックと深い関わりを持っており、その経験が様式美ヘヴィメタルの確立に繋がったと言われている。
私にとってこのエピソードは、芸術分野における「学」は重要である(浅学非才であってはならない)と思い知らされた出来事だった。
次 メタル編
そのうち